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横浜地方裁判所 昭和33年(む)91号 判決 1958年7月23日

被疑者 鴨志田利之

決  定

(申立人氏名)(略)

被疑者鴨志田利之に対する出入国管理令違反被疑事件につき横浜地方裁判所裁判官潮久郞が昭和三十三年七月十九日なした勾留取消の裁判に対し、申立人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

本件準抗告申立理由の要旨は、横浜地方裁判所裁判官潮久郎は昭和三十三年七月十九日被疑者鴨志田利之に対する出入国管理令違反被疑事件について、被疑者には刑事訴訟法第六十条第一項第二号、第三号に定める勾留理由がなくなつたとして同被疑者に対する勾留を取消した。しかしながら、(一)被疑者は取調に当り出国の日時、場所、方法、目的等について供述を拒否しているのであるから、なお身柄拘束のうえ捜査を遂げなければ犯罪事実を明白にできないばかりでなく、出国関係者と通謀して証拠の隠滅を図る虞れが多分にある。(二)それのみならず、被疑者は出国前から家族と音信を断つて所在不明となり、また出国中も家族との音信を途絶していたのであるから、たとえ帰住予定先の住所届を提出したとしても、これのみをもつて逃亡の虞れがなくなつたものというべきではない。したがつて、被疑者には勾留を必要とする相当の理由があるのにかかわらず右被疑者に対する勾留を取消した原裁判は相当でないから右裁判の取消しを求める、というにある。

よつて、まず被疑者に罪証隠滅の虞れがあるか否かにつき検討するに、本件記録によれば、被疑者は申立人主張のように出国の日時、場所等について供述を一切拒否しているが、一件記録に徴すれば被疑者が出入国管理令に違反して勾留請求書記載の事実のような犯罪事実を犯したことはこれを認めるに足り、被疑者においてこの間の証拠隠滅を図る余地はないばかりでなく、その他被疑者においてかような行為に出ると疑わしめるに足る資料もない。さればこの点に関する申立人の主張は採用することができない。次に被疑者に逃亡の虞れがあるか否かにつき案ずるに本件記録によれば被疑者の身柄については川崎市下小田中六百九番地松島松太郎がその身柄を引受ける旨身柄引受書を提出しているばかりでなく、被疑者の弁護人岡崎一夫、同山内忠吉両名においても同様被疑者の身柄を引受けることが看取されるから、かような事実に照せば、今ただちに被疑者に逃亡の虞ありと断ずることはできない。

これを要するに被疑者については勾留する必要はないものと認めるのが相当であつて、これと同趣旨に出た原決定は相当であり、本件準抗告は理由がないものといわなければならない。

よつて、刑事訴訟法第四百三十二条、第四百二十六条第一項によりこれを棄却することとして主文のとおり、決定する。

(裁判官 松本勝夫 三宅東一 神田正夫)

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